歯科保険制度を考える(2011)

補綴物というアキレス腱(2007 年 3 月 10 日のコラムより)


補綴物(歯科技工)の評価の問題は、我々にとってアキレス腱である。
国の医療費抑制の方針には、保険給付範囲の見直しも含まれており、補綴が縛りを受けた上で、保険から外れることは、相当以前から囁かれていた。補綴は本来医療の範疇に含まれないとされている。また補綴の保険からの給付を認めている国は極めて珍しい。しかし勿論患者は、こんなことを知らないし一時に殆どの補綴物が所謂給付外となるなら、前もって周知された場合の駆け込み需要と、現場に丸投げされた説明責任を考えると気が重くなる。

歯科医療の質の確保の上で財源に問題があるなら、補綴の負担割合を変更するという考え
もあるが、それが皆保険制度に適うものかどうか私は分からない。
さて歯科医療の提供者側にも、こういった流れを望むところとする向きもある。

何を望んでいるにせよ、支払側やこれを好機到来と目論む外野の勢力は、既に現時点で、保険給付の内外を問わず補綴物(歯科技工)を幾らほどで歯科医師が歯科技工士に「お願い」しているのかを十分にお見通しの筈である。
保険給付内の補綴物は、それがたとえ十割負担であったとしても兎に角安い。すると一部の患者には安かろう悪かろうの劣悪なものではないかとの考えも生じる。要するに保険診療が余りに低額である為、全くに桁の違う自由診療を選択しようとする心理が働く。これは提供者側が無理矢理に誘導しようとせずとも起こることなのだ。しかし未だ多くの場合、その患者の評価は歯科医師や歯科技工士の技術に対してではなく、モノそれ自体に対して為されたものだとも言える。

私が以前に見学させて戴いた非保険医・自由診療専門の歯科医院では、歯冠補綴の料金設定において、形成料>補綴物であり、患者からの費用徴収はその都度であった。これは、生体に不可逆的な侵襲を加えることに対する責任感と自分の技術に対する矜持の表れであると感じたが、また補綴物=外注技工料金であり、調整、装着料はこれ等に比べ、極めて低額でもあった。形成料>技工料が正しいのか、形成料<技工料の方が望ましいのかは兎も角、技術の理想的な評価とは、こういったものであろうと思う。
歯科医師が保険診療における補綴の不採算性を訴えるのは、患者サイドに対しても、技工サイドに対しても、実は全くのお為ごかしに過ぎなかったのではないか。我々がこのアキレス腱を抱え、歯科医療に対する正当な技術評価を得られぬままに、予測されることが現実となるのなら、それはまさにアキレウス最後の闘いとなろう。

弱点は必ず狙われるのだ。

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